アウトドア科学・・・衣服内気候の基礎

最近、有名アウトドア雑誌で読んだ記事に気になる内容がありました。

ゴアテックス社製の最新の靴の記事です。

その中で湿度計を使った靴ムレの評価をしているのですが、

あまりにも不正確だったので少し解説をしようと思います。

ゴアさん・・・かわいそうです。

 

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まずは衣服内気候という言葉から入りましょう。

人間が衣服を着用すると人体と衣服との間に空気層ができます。

この空気層内では外部環境とは異なった温度、湿度、気流の分布を持つ

局所的な温熱環境が形成されます。

これを衣服内気候と言うのですが人体と外界との間の熱、

水分の移動に深く関与しているのです。

 

衣服内気候という研究は1990年代にブームになりました。

これはゴアテックスを代表とした「水は通さないが湿気は通す」という布が生まれたためです。

最近ではユニクロ(UNIQLO)のヒット商品「ヒートテック」が生まれ、

第2の衣服内気候ブームを迎えています。

実はアウトドア科学研究所の所長の私・・・

このジャンルもマニアなので結構忙しいのであります。

 

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衣服内気候は裾野が広くいろいろなジャンルで研究が進んでいます。

  • 通常の衣服・レインウェア・防塵服など
  • ビジネスシューズ・スポーツシューズ・スキー靴など
  • ヘルメット・自衛隊のヘルメット
  • 紙おむつ
  • 寝具・ベット・寝袋
  • 自動車のシート・車いす
  • ベビーカー・抱っこ紐
  • かつら

こんなにあるんですね。

思えば温度湿度計測を通じていろんな仕事をさせていただいたものです。

 

さて、衣服内気候においてその評価方法としては温湿度センサーを用いて、

直接、衣服内の環境を計る手法が一般的です。

ところがこの計測において注意する点がたくさんあるんですね。

 

注意する点をまとめてみましょう。

➀個人差・職業による差があります。

したがって複数人の被験者が必要になるのです。

職業というのはスポーツ選手・ダンサーなどは発汗を押さえる技術を持っているので不向きです。

昔、NHKの取材でダンサーの方を使って計測したのですが、

2回目以降まったく湿度が上がらなかった覚えがあります。

 

➁➀により連続の実験はタブー。

日をまたいでの実験が望ましいとされています。

 

③温度・湿度より絶対湿度(g/kg)などを計算するので、

湿度計には確かな物が必要になります。

私の1番お薦め温湿度センサがこちら

④衣服内気候には静的と動的があります。

寝具などを評価する場合の安静状態で計測する場合を静的。

運動をし意図的に発汗させた状態を動的と呼びます。

後者は衣服内に汗という水分が入るので計測にもさらにノウハウが必要になるのです。

 

⑤ポンピング現象に注意。

衣服内にはポンピング現象という言葉があります。

これは衣服を着て運動をすることにより気流が発生して、

衣服内にて換気が行われると言うことです。

 

洋服をデザインする上でこの効果が上がる設計をすると、

発汗による湿度が抜けやすくなり快適性が上がるというものです。

冒頭の雑誌では湿度センサが大きく隙間が出来る為、

実際の靴を履いた状態と違い湿度が下がったと予想しています。

奥が深いですね・・・!

 

それでは計測に関しては次の記事で書くことにして、

ちょっと質問です。

 

洋服の発明の中でこの衣服内気候上・・・一番困るファッションがあります。

 

それはなんでしょう?

 

 

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そう、ネクタイなんですね。

ネクタイは衣服内換気を一番防いでしまうのですよ。

最近ではネクタイをすると健康上にも問題があるなどと発表されています。

 

これから暑い夏、クールビズは必須ですね!

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社会科見聞録2・・・魚津埋没林博物館

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今回は富山県魚津市の魚津埋没林博物館さんを紹介します。

こちら富山から小一時間・・・

「魚津埋没林」と運が良ければ見られる「蜃気楼」の博物館なんですね。

 

今回は記事を書くにあたり魚津埋没林博物館さんから快く了解を得る事が出来ましたので、

蜃気楼の温度におけるメカニズムなども紹介いたします。

 

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埋没林とは文字どおり「埋もれた林」のことだそうです。

約2,000年前、片貝川の氾濫によって流れ出た土砂がスギの原生林を埋め、

その後・・・海面が上昇して現在の海面より下になったと考えられています。

 

実際に見てみると・・・ただただ美しいです。

 

水面下からも見られる工夫がしているので、

癒やされたい方はぜひ行ってみてくださいね。

 

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「蜃気楼」はお隣にある海の駅「蜃気楼」さんから見るのもおすすめ。

広い駐車場から富山方面を望みましたが、

この日は風が強く見ることは出来ませんでした。  (T_T)

 

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冬の蜃気楼は、11月~3月頃の寒い時期、

春の蜃気楼が出やすい時期は(3月下旬~)4月~5月(~6月上旬)なので今がチャンスです。

休みの日にはボランティアの方が説明に出ているので、

いろいろと教えてくれます。

 

そもそも蜃気楼が見られるメカニズムとは何なんでしょう?

魚津埋没林博物館さんのHPにわかりやすい解説が書いてありますので引用しますね。

 

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蜃気楼は、大気中の温度差(=密度差)によって光が屈折を起こし、

遠方の風景などが伸びたり反転した虚像が現れる現象です。

蜃気楼には大別して上位蜃気楼と下位蜃気楼とがあります。

 

上位蜃気楼も下位蜃気楼も、大気中で光が屈折して発生します。

物体はあらゆる方向に光を反射していますが、

そのうち私たちの目に見えるのは一部だけです。

大気中に温度差がないとき光は直進するので、

物体と目を直線で結ぶ方向の光だけが目に見えます。

ところが、冷たい空気と暖かい空気が重なり合い、

その境界の狭い範囲で空気の温度が連続的に変化するような場合、

そこで光の屈折が起きます。

 

このような層の中では、光は温度の低い(=密度の高い)方へ屈折しカーブを描きます。

そのため、上が暖かく下が冷たい空気層では、

上へ向かう光線の一部が屈折して下へ戻り、

観察者の目に届きます(凸形にカーブした光線、下図上のa-b-gやa-d-f)。

逆に、下が暖かく上が冷たい空気層では、

下へ向かった光線の一部が屈折によって上へ戻ってきます。

(凹形にカーブした光線、下図下のa-b-gやa-d-f)

 

人は、途中でどんなに光が曲がっていても、

目に入ってくる直前の光の方向に物体があるようにしか見えません。(上図のa-b-cやa-d-e)。

したがって、凸形のカーブで届いた光では実際の風景の上側に虚像が見え、

凹形のカーブで届いた光では下側に虚像が見えることになります。

どちらの場合も・・・

冷たい空気の部分を直線的に届く光(上図のa-fやa-g)によって実景そのものも見えます。

 

温度の低い(=密度の高い)方へ屈折という文章表現が、

大気の温度における分子運動に通じる物がありワクワクしますね。

遠い景色を見ながらその間に分子や原子を動きを想像するスケール感。

こういうのが大好きです。

 

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蜃気楼の伸びという現象がこちら。

実景が実際より高く上へ伸びて見えます。

全体が一様に高く伸びて板塀状に見える場合や、

所々が欠けてバーコード状に見える場合等さまざまな変化があります。

ほんと見てみたかったです。

 

ちなみに撮影ですが普通のデジカメでは撮れません。

焦点距離500mm相当(35mm判換算)以上の超望遠レンズが必要だそうです。

双眼鏡で言えば10倍程度ですかね・・・

 

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おまけですが・・・

海の駅「蜃気楼」さんの白エビコロッケ(250円)

ちょっと高いけど超美味しかったです!