株式会社第一科学

物体の伸縮を利用した湿度計

伸縮式湿度計

伸縮式湿度計とは、感湿素子に毛髪、ナイロン等を使用し、これらが湿度により伸縮する特性を利用し湿度の表示を行なう計測器です。 特に、毛髪を利用した毛髪式自記二段記録計と呼ばれるものは、美術館やクリーンルーム等の管理用として数多く販売されています。

毛髪式記録計

毛髪の湿度による伸縮と連動し、ドラム状になった記録紙上を指針の先のペンによって記録を行ないます。
また、同時にバイメタル等で同様に温度を記録する機能をもち、一般的には自記二段記録計と呼ばれています。(温度と湿度で二段、自分で記録するから自記)

特長として

  • 構造が簡単である。
  • 連続記録(1週間~1ヶ月等)ができる。
  • 湿度が直読できる。(相対湿度で記録)
  • 安価である。

等の長所がありますが、毛髪の使用、保管等環境状態により精度が大きく変わる短所もあり、JISでは標準とする湿度計との比較校正で5%RH以上の差があるときに調整をする、となっています。

上記の図は、毛髪式自記記録計の構造を簡素化して表したものです。様々な形状の製品がありますが、多くはこの図に温度の指針が加わった構造となっており、上段に温度、下段に湿度を記録します。

それでは、この毛髪式湿度計の取り扱いについて説明します。この毛髪式湿度計の取り扱いでは、もちろん感湿部である毛髪の取り扱いが一番重要です。

(1) 毛髪の汚れについて

ホコリや塵がつき、毛髪に汚れが生じると指示のくるいが生じます。柔らかい筆などで常に清掃しますが、きれいな水を筆につけ、軽く拭いても結構です。但し、水で拭いた後は、必ず自然乾燥を行なって下さい。

(2) 設置する環境について

毛髪は低湿度(10%RH以下)の所に長時間放置していると、その伸縮特性が変わり、指示のくるいが生じます。この場合は、100%RH近くの所に数時間放置するか、(1) と同様にきれいな水を含んだ筆などで湿らし、自然乾燥した後、校正を行なって下さい。また、感湿部である毛髪は乾燥した空気の中では伸縮の度合にバラツキが大きくでるため30%RH以下の低い湿度の場合、正確な値を得ることは困難です。

(3) 風速、風圧による影響について

風速が1~5m/s位であれば特に問題はありませんが、風速が10m/s以上になると風圧がかかり、指示が約2%RH程度低くなる場合があります。従って、風速があまり無い場所での使用が良好な設置場所と言えるでしょう。

(4) 温度による影響について

毛髪は温度によっても伸縮が変化しますが、湿度による変化に比べごくわずかですので無視してもかまいません。但し、60℃以上の環境に長時間放置しますと、毛髪の伸縮特性が変化しますので使用はできません。

(5) 有機溶剤等の影響について

アンモニア、硫化物溶液、フェノール等は毛髪の伸縮特性、または、毛髪そのものに悪影響を及ぼします。これらが存在する雰囲気中での使用は避ける必要があります。

(6) 測定精度と校正について

JISには、測定精度は毛髪の伸縮特性や使用環境、機構部の摩擦などの影響により±4~7%RH、また、校正は、基準となる湿度計(JISでは標準湿度計)との比較にて行なう、と表示されています。
標準湿度計と同じ雰囲気に並べ、お互いの指示が安定した状態で比較校正を行ない、差が±5%RH以上あるときは調整が必要となります。

従って、製品によっては、常に校正をしなければならない物もありますし、比較的精度が良いものでも頻繁に校正し、指示値の確認をする必要があるといえます。(以前は1ヶ月に1回程度を目安としていました)
毛髪式湿度計には、その指示を調整するネジがありますので、その指示調整ネジを回し、基準湿度計と同じ値になるよう調整を行ないますが、他の部分を動かすと、倍率や調整がくるいますので注意して作業を行なう必要があります。

ポイント(毛髪式湿度計の注意)

  • 毛髪が汚れていると指示のくるいが生じる。
  • 低湿度での長時間放置は避ける。
  • 30%RH以下で正確な湿度測定は困難である。
  • 風圧がかかると指示に狂いが生じる。
  • 60℃以上での使用は避ける。
  • 有機溶剤が存在する雰囲気では使用できない。
  • 校正は、標準湿度計との比較により調整を行なう。